近年、家づくりをする際に「日本家屋風の間取りやデザインを取り入れたい」と希望する方が増えています。
しかし実際のところ、日本家屋の間取りや内外装について詳しい方は少ないのではないでしょうか。
実は日本家屋には優れた特徴が多くある一方で、現代の住宅環境には合わない特徴も持ち合わせています。そのため家づくりに日本家屋の要素を取り入れる際は、慎重な検討が必要です。
今回は、日本家屋の間取りを特徴づける内外装の名称や地域差、外国の家との違いなどを解説します。日本家屋の間取りを採用するメリット・デメリットも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.日本家屋の間取りの特徴
日本家屋には、間取りや内外装に独自の特徴が多く見られます。
とくに次にあげるものは、機能性やデザイン性に優れた日本家屋ならではの特徴です。
1-1.田の字型
伝統的な日本家屋には、4つの部屋が「田の字型」に並んだ間取りを採用したものが多くあります。各部屋の間には壁がなく、ふすまで仕切られていることが大きな特徴です。
このような間取では、用途や状況に応じて空間の大きさを自由に変えられます。ふすまを開け閉めするだけで簡単に部屋の大きさを調整でき、ふすまを外せば大広間にもなります。
昔の人の知恵が詰まった、機能的な間取りと言えるでしょう。
1-2.縁側
縁側とは、家の座敷から張り出した細長い板敷きのことです。現代の住宅で例えれば、ウッドデッキに近いものと言えるでしょう。
日本家屋には、「家の中と外の境界が曖昧」という大きな特徴があります。その特徴が大きく現れているのが縁側です。
縁側は屋内と屋外をゆるやかに繋ぎ、暮らしの中に自然を取り込んでくれます。昔は縁側に座りながら日向ぼっこや夕涼みをする光景が、どの家でも見られました。
また、あるときはコミュニケーションの場でもありました。縁側に腰掛けてご近所さんと話し込んだり、お茶を飲んだりといった光景を古い写真などで見たことのある方も多いのではないでしょうか。
なお、縁側の上は軒(のき)や庇(ひさし)で覆われていることが一般的です。これには日光の入り具合をコントロールして室内の環境を快適に保つ役割があります。
1-3.土間
昔の日本家屋には、玄関と居室のあいだに土間が設けられている住宅が多くありました。
古くから日本の家は土足厳禁です。しかし土間は屋内の一部として天井や壁があるにもかかわらず、土足で歩ける空間となっています。
土間は何でも使える便利な空間として利用されていました。あるときは農具や漁具を保管する倉庫、あるときは来客と話すための客間となります。また、炊事の準備などにもよく利用されていたようです。
現代でも土間を設けてベビーカーや自転車などを置いている家もあります。
1-4.床の間
床の間とは和室の上座側に設けられる、床を一段高くしたスペースのことです。一般的には、掛け軸や絵画、花や置物を飾る場所とされています。
現代では和室を彩るスペースとして形式的に設けられることが多い床の間ですが、かつては家の中でも最上の部屋に設けられるものでした。
床の間を飾った部屋でお客をもてなすことで、家の権威をアピールする目的もあったとされています。
1-5.格子戸
日本家屋の玄関や掃き出し窓(床の部分まである窓)などには、格子戸が設けられているのが一般的です。
格子戸は、機能性とデザイン性に優れた建具です。格子状にすることで外からの視線を適度にさえぎりながら光を屋内に取り入れることができます。また、格子の隙間から風が入ることで、通気性を確保することが可能です。
格子の組み方もそれぞれ異なり、デザイン性に富んだものが多くあります。その趣ある佇まいは、現代の和風モダン住宅でも定番の建具として取り入れられています。
1-6.和風天井
伝統的な日本家屋には、天井の材質やデザインにこだわった部屋が多く見られます。
天井は本来、屋根裏からホコリが落ちるのを防ぐための実用的な設備です。しかしデザインにもこだわることで空間を演出したり、部屋の格を高めたりする役割があったようです。
和風の天井は種類が豊富で、代表的なものだけでも次があげられます。
- 竿縁天井(さおぶちてんじょう):竿縁と呼ばれる細長い木材の上に、平行に並べた板を張った天井。一般的な和室に多い
- 目透かし天井(めすかしてんじょう):板の間にわずかな隙間を空けて張る天井。現代の和室でもよく見られる
- 網代天井(あじろてんじょう):竹皮、割竹などを編んで作った天井。茶室などに多い
- 格天井(ごうてんじょう):板を格子状に並べた天井。城や豪邸に多い
1-7.見せ梁
見せ梁(みせばり)と呼ばれる、屋内の頭上に梁(はり)を見せる構造の日本家屋も存在します。
そもそも梁(はり)とは、屋根や上階を支えるために横方向に渡された構造材のことです。
天井を設けずに梁をあえて見せることで、通気性が良くなるうえに、開放感を演出できます。
現代の住宅で見せ梁を設ける場合は、飾り用の梁を別で用意することもあります。しかし古い日本家屋の見せ梁は、家の構造そのものを魅せるデザインです。木材も立派なものが使われています。
1-8.坪庭
日本家屋では、塀や垣根の内側に坪庭と呼ばれる小さな庭が造られることがあります。
坪庭は、草木や石、鹿威し(ししおどし)などを配した日本庭園のミニチュア版のようなものです。
景観を楽しめるだけではなく、屋内に光を取り入れたり、風通しを良くしたりする役割もあります。
1-9.畳
ご存知のとおり、日本家屋の間取りでは畳を敷いた部屋が多くあります。
畳は日本固有の敷物です。古くは平安時代に座布団代わりとして用いられていたものが、その快適さから時代が下るにしたがって部屋の中に敷き詰められるようになりました。
畳は板張りの床よりも柔らかく、通気性や調湿機能にも優れています。高温多湿の日本で床に座る生活をするうえでは、欠かせないものと言えるでしょう。
畳に使われるい草の香りには、リラックス効果もあると言われています。
1-10.書院
書院とは、床の間の側面に設けられる座敷飾りのことです。この書院も日本家屋にしか見られない、独特の間取りです。
障子窓が出窓のように縁側に張り出しているのが特徴で、古くは書物を読み書きするためのスペースとされていました。
現在では趣を出すための飾りとして形式化されていますが、部屋に光を取り入れる機能もあります。
1-11.引き戸
出入り口や間仕切りに引き戸が多く用いられているのは、日本家屋の大きな特徴です。
普通のドアは開くためのスペースが必要となります。しかし引き戸はレール上を横にスライドさせるだけで開け閉めできるので、家具の配置や間取りの自由度が高くなる利点があります。
玄関にまで引き戸が多いのは、日本の住宅くらいのものです。治安が良くて頑丈さを重視する必要がなかったため、スペース効率の良い引き戸が普及したと言われています。
1-12.外観
日本家屋には、外観にも特徴が見られます。
たとえば次のような外装は、日本家屋に独特のものです。
- 瓦ぶきの屋根
- 漆喰(しっくい)塗りの壁
- 鎧(よろい)張りの壁
瓦ぶきの屋根は断熱性や防音性に優れ、通気性も良いため日本の住環境に適しています。また防火性も高いことから、木造である日本家屋の弱点を補う役割もあります。
漆喰塗りの壁は調湿機能が高く、屋内を過ごしやすい湿度に保ってくれる機能があります。防火性も高く、建築基準法では不燃材料として認められているほどです。
木製の板を重ねて段差を作った鎧張りの壁は、雨水などを受け流しやすいように工夫されています。一枚ずつ部材を交換できるのでメンテナンス性にも優れ、雨の多い日本に適した壁と言えるでしょう。
2.日本家屋の間取り図を見れるサイトは?
ここまで日本家屋の特徴や魅力を紹介してきましたが、実際の間取り図を見たいと思った方も多いのではないでしょうか。
インターネット上からでも、日本家屋の間取り図を見ることは可能です。
具体的には、物件情報サイトの「SUUMO」の他、Webサイト上にある画像を集めてブックマークできる「Pinterest」で日本家屋の間取り図があげられています。
また、「豪邸を建てる」というサイトでは、日本家屋を含めた豪邸の施工事例がきれいな写真とともに載せられています。家造りに和の要素を取り入れたい方の参考になるはずです。
3.日本家屋の間取りを採用するメリット
日本家屋の間取りや内外装には、さまざまなメリットがあります。
家づくりに日本家屋の要素を採用したり、伝統的な日本家屋に住んだりする場合、次のようなメリットが得られるでしょう。
3-1.部屋の大きさを調整できる
日本家屋では、ふすまや障子戸で部屋を仕切るので部屋の大きさを自由に調整できます。
現代の住宅のように壁やドアで個室が仕切られていると、間取りを変えるのに工事が必要です。
しかし、ふすまや障子戸であれば開け閉めや取り外しが自由なので、ライフスタイルの変化や用途に合わせて簡単に間取りを変えられます。
大人数の来客があった場合や家族構成が変わった場合でも、すぐに対応することが可能です。
3-2.風通しが良く調湿機能が高い
日本家屋はどの部屋も開口部が大きく、風通しに優れています。
また、木材・畳・土壁・漆喰などの材料が夏場は湿気を吸収し、冬場は湿気を放出してくれるので湿度が快適に保たれます。
結果として、カビやダニなどの有害物質の発生を抑えることが可能です。建築材料のほとんどが天然素材のため化学物質が発生する心配も少なく、小さな子どもがいる場合も安心と言えます。
3-3.日当たりが良い
日本家屋は外側に面している部屋が多いので、日当たりが良好です。
そのうえ取り込む光を適度な具合に調整できるよう工夫されているので、快適に過ごせます。
縁側を覆う深い軒は夏の日光をさえぎり、冬の日光を屋内に取り込みます。障子はまぶしい直射日光ではなく、柔らかな光だけを屋内に取り込む役割があります。
3-4.耐久性が高い
日本家屋は、そのほとんどが木材で作られています。歴史的な建築物に木造が多いことからも分かるように、木造建築は想像以上に耐久性が高いものです。
日本では古くから木造建築が主流だったため、部材を組む技術が洗練されていることも耐久性が高い理由と言えます。
現代に建てられる木造住宅の多くが、日本古来の工法を応用した「在来工法」を採用していることからも、その信頼性の高さが分かります。
3-5.自然を楽しめる
日本家屋の間取りを採用すると、暮らしの中に自然を取り入れることが可能です。
土間で感じる気温の変化や、縁側で浴びる風や日差しからは四季の移ろいを感じられます。坪庭を眺めれば、四季折々の植物が楽しめます。
自然と快適に共存するライフスタイルを実現できる点は、日本家屋の大きな魅力でしょう。
4.日本家屋の間取りを採用するデメリット・注意点
日本家屋には魅力が多い反面、デメリットも存在します。
日本家屋の間取りを採用する場合、古い日本家屋に住む場合は、次のような点に注意が必要です。
4-1.敷地面積が必要
伝統的な日本家屋の間取りを採用する場合、広い敷地を確保する必要があります。
なぜなら日本家屋は構造的に2階建てにしづらく、平屋建てであることが基本だからです。
広い開口部やふすまで仕切られただけの間取りは、建物を支えるための太い柱や耐力壁を配置しづらい傾向にあります。したがって十分な強度を確保するためには、平屋建てでなければいけません。
平屋建てとなれば、2~3階建ての住宅よりも広い敷地が必要となります。
一般に出回っている住宅用地は2~3階建て用に区画されている場合が多いので、注意が必要です。日本家屋に合う広い土地を入手するためには、費用はもちろん時間もかかります。
4-2.建設費用が高額
日本家屋は建築材料のコストが高いうえに、施工できる職人の手配も必要なため建設費用が高額となります。
現代の戸建て住宅には、大量生産された建材が使われているのが一般的です。たとえば屋根材はセメントと繊維質を混ぜ合わせたスレート、外壁はセメント製や金属製のサイディングボードが主流です。
しかし日本家屋では、使われる建築材料のほとんどが天然素材をもとに作られています。また、現場での加工や設置に熟練の技術が必要です。
たとえば瓦は大量生産ではないので価格が高いうえに、設置に手間もかかります。外壁に漆喰を塗るにしても高い技術が必要です。結果として施工期間が長くなり、人件費もかかります。
4-3.断熱性・保湿性が低い
日本家屋は現代の住宅と比べて、断熱性・保湿性が低い傾向にあります。
現代の主流である洋風住宅は、断熱材をボードで挟んだ構造の「大壁」で間取りを区切ります。
しかし日本家屋の壁は、断熱材を挟まずに漆喰や土を塗っただけの「真壁」が主流です。また、ふすまで仕切られているだけの開放的な間取りであることから、気密性も低い傾向があります。
結果として冷暖房が効きづらく、電気代も高くなりがちです。一部屋ずつふすまで区切られているので、エアコンの設置数も増える傾向にあります。
4-4.セキュリティが心配
日本家屋は、現代的な住宅に比べてセキュリティ面での弱さがあります。
伝統的な日本家屋の間取りはほとんどの部屋が外に面しているので、外側から屋内の様子を確認しやすいうえに侵入も簡単です。
また、建具に使われる引き戸はドアよりも防犯性能が劣ります。家を留守にする機会が多い場合は、どのようにセキュリティ性を高めるのか検討が必要となるでしょう。
4-5.プライバシー確保が難しい
日本家屋は部屋の間をふすまや障子戸で仕切るため、プライバシーの確保が難しいというデメリットがあります。
ふすまを一枚隔てただけでは話し声も聞こえてきますし、部屋内の気配も感じ取れます。ふすまを開ければ、すぐに隣の部屋の中を見ることも可能です。
こういった日本家屋独特の間取りは、ライフスタイルによって向き・不向きが別れます。家族の交流を増やした場合には向いていますが、個人のプライバシーをしっかりと確保したい場合は不向きと言えるかもしれません。
4-6.家具は和風での統一性が必要
日本家屋で暮らそうとした場合、家具・家電の選択肢が狭いこともデメリットです。家の内外観が純和風だと、家具や家電も和風で統一しなければ違和感が出てしまいます。
これから日本家屋に引っ越す場合は、今持っている西洋風の家具・家電を買い換えなければならない可能性もあるでしょう。
とはいえ最近は選択肢も増えつつあります。和風デザインの大型家電なども市販されていますし、市販の木目調カッティングシートを手持ちの家具・家電に貼り付けて対応することもできます。
4-7.耐震性が心配
伝統的な日本家屋の間取りでは、耐震性に不安が残ることは事実です。
頑丈な壁や大きな柱を配置しづらい構造であるうえに、木造の上に重い瓦屋根が乗っている状態なので、大きな揺れには弱い傾向があります。
もちろん新築する場合は現代の建築基準法にのっとって建築許可を得るため、必要最低限の耐震性は確保できます。
しかし古い日本家屋に住もうと考えている場合は、注意が必要です。耐震性や、各部のメンテナンス状況のチェックが必要となる場合もあります。
5.日本家屋は地域によって特徴が違う?【外国との比較】
日本家屋は、その土地の気候や文化に合わせて発展してきました。
そのため地域による違いがあることはもちろん、外国の家とも大きく違います。
5-1.地域による違い
日本は南北に長く、山も多い国です。昔から地域によって気候や文化が異なるため、日本家屋に現れる特徴もまた各地域で異なります。
たとえば東北や北陸など豪雪地帯の日本家屋では、雪の重みに耐えて屋根を支えられるよう、ひときわ太い梁が架けられるのが一般的です。土間にむしろを敷いて暖をとれるように、台所が他の部屋より一段低くなっている家も多くあります。
名馬の産地として知られる岩手県・南部地方では、母屋に馬厩(うまや)が接続されたL字形の間取りをした日本家屋が見られます。囲炉裏を炊いたときに暖気が馬厩に流れるように配慮されたもので、馬を大切にする文化がよく現れた特徴と言えるでしょう。
また、地理的に京都に近い大阪・能勢には、京都の町家の影響を受けてか細長い間取りの日本家屋も見られます。柱には能勢の特産品である栗の木が使われるなど、材料にも地域差が現れています。
5-2.外国(欧米)の住宅との違い
外国と日本では気候や文化が全く異なるので、住宅にも大きな違いがあります。
全体的な特徴で言えば、欧米の住宅のほうが全体的にゆったりとした造りです。欧米には日本よりも体格の大きな人が多いためと考えられます。基準となる寸法も日本より大きく、部屋の広さはもちろん廊下の幅なども欧米のほうが広めです。
間取りのとり方も、日本家屋とは大きく異なります。欧米では家族と過ごす時間を大切にする習慣があるので、リビングなど家族団らん用のスペースが広く設けられています。
また、プライバシーを重視する文化なので、各個室が日本家屋のような障子戸やふすまではなく厚い壁で区切られています。寒さが厳しい北欧や北米などの住宅は、保温性を重視して断熱材を含んだ壁が一般的です。
その他、欧米の住宅の特徴としては、機能性重視であることがあげられます。
家事をするためのサービスルームがキッチン付近にあったり、駐車スペース兼倉庫としてビルトインガレージ(建物に組み込まれたガレージ)があったりする点は、日本家屋とは異なります。
6.「日本家屋 間取り」のまとめ
日本家屋は、日本の風土に合わせて間取りや内外装を洗練させてきました。
そこには快適かつ便利に過ごすための、先人たちの知恵が詰まっています。また、自然と共生するという日本古来の美意識も生かされています。
現代において純粋な日本家屋に住むことは、難しいかもしれません。しかし日本家屋の要素を家づくりに採用することは可能です。
和室を一室設けたり、縁側風のウッドデッキを設けたりなど、予算や事情が許す範囲内でかまいません。ぜひ日本家屋の良さを、暮らしの中に取り入れてみててはいかがでしょうか。