消費者を不当な取引からまもる「契約不適合責任」。不動産の顧客にも、大切な役割を果たしています。
「契約不適合責任とは? わかりやすく知りたい」
「民法改正でどう変わった?」
「期間や免責はどうなっている?」
「実際の例を知りたい」
明治以来の民法大改正で、より消費者有利になった売主責任の定義は、大幅に風通しが良くなった半面、いままでの内容に慣れている売主さんには逆に、ちょっとまぎらわしく感じる部分もあるかもしれません。
今回は「契約不適合責任」についてのお話をします。大きな買い物では、知らないと損することもあります!ぜひ参考にしてください。
目次
1. 契約不適合責任とは?
契約不適合責任とは、平たい言い方をしますと、「買ったものが予定通りの役割を果たさない!どうしてくれるの?」という声に対しての、売った人の責任のことです。
2020年4月の法改正までは「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」と呼んでいたのですが、言葉としてはまったく同じ意味です。まだ世間の情報では瑕疵担保責任の表現が多く出回っていると思われますので、そのようにお考え下さい。
1-1.売買契約・請負契約全般に適用
この責任は、民法上の表現では「買主が購入した目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき、売主は責任を負う」という規定となっています。
民法の該当部分(債権法)で2020年4月施行の大改正があり、その適用範囲や買主の権利についての内容が変わり、「売買契約・請負契約全般」に適用するということになりました。
ただし、商法=BtoBの関係では、民法と異なる権利行使の期間が定められ、商人間の売買では「買主は、目的物を受け取った後、遅滞なく検査し、契約不適合を発見したときは直ちに売主に通知しなければ契約不適合責任を追及できない」というふうに定められています。
また、「検査で直ちに発見できない契約不適合については引渡し後6か月以内に発見して直ちに通知しなければ責任追及できない」となっていて、一般消費者とは違うルールが生きています。
1-2.不動産の取引について
不動産取引では、言うまでもなく土地・建物の品質が問題の中心となってきます。建物は中古物件が主流ですが、新築でも施工欠陥などが該当します。
建物 | 経年による劣化または欠陥 屋根・天井裏の損傷などによる雨漏り 水道管の老朽化による水漏れ シロアリなどの侵食 基礎や構造物の腐食。「明らかな」欠陥= 家屋の傾き 塀が崩れている |
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土地 | 土壌が汚染されている 地中に不要な埋設物がある(廃材ほか) 土地の面積が契約上の面積と違っている 契約時に伝えられなかった法令制限があった |
2. 契約不適合責任はどう変わった?【民法大改正】
今回の民法大改正で最も重要な点は3つあります。
「隠れた瑕疵であるか」を問わなくなった点と、買主の「追完請求権」と、「代金減額請求権」の追加です。
追完請求権 | 新たに「追完請求」をすることができるようになった。 追完請求:目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しなどの方法により、改めて完全な給付を求める権利。いずれの追完方法によるかは、買主が選択できる。 ただし買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は買主が請求した方法と異なる方法で追完することもできる。 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、追完請求することはできない。 |
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代金減額請求権 | 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるようになった。 履行の追完が不能であるときや、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したときなどは、追完の催告なく代金減額請求をすることが可能。 ただし位置づけはあくまで追完請求が功を奏さないときの「次の手段」の請求権。 |
損害賠償請求権 | 損害賠償請求も、債務不履行の一般規定に基づいて行われることとなり、隠れた不適合であるという条件は要求されなくなった=買主の善意(知らなかったこと)・無過失は必要なしに。 |
解除権 | 解除権も債務不履行の一般規定に準じて、買主は追完の催告をしたにもかかわらず売主が追完しない場合、契約を解除することが可能となった=隠れた不適合であることは要求されなくなった。 また、債務の全部の履行が不能であるときや、売主がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、無催告での解除も認められている。 解除権も、追完請求が功を奏さない場合の「次の手段」。 |
2-1.売主が宅建業者の場合、さらに買主有利に
宅建業法により、売主が宅建業者(プロの不動産業者)の場合、契約不適合責任を免責する特約が制限され、さらに買主が保護されます。「プロなのだから、さらに責任を負ってください」というわけです。
売主が宅建業者の場合、売主が契約不適合の責任を負う期間を引渡しの日から2年間という特約をすることはできません。ただし、買主が不適合を通知するまでの期間を、引渡しの日から2年に制限する事前の特約は可能です。
3. 契約不適合責任はどのように適用される?【期間・免責】
3-1.契約不適合責任の適用範囲
契約不適合責任も、以前の瑕疵担保責任と同様に、特約で免責をすることは可能です。
契約不適合責任は、当事者の特約も有効とする 任意規定に該当するためです。売主も不当に脅迫などされないよう、権利を守る必要もあるとも言えます。
責任の期間や免責を設けるのはスムースな取引を目指す目的もあります。売主の責任が重すぎると、取引が活性化しないからです。
「もうこの物件は古いし、安く売るから、この点はあとで言わないでね。」「期間が過ぎたら自分で直してね」というわけです。
免責の特約内容としては、前述の築古物件の瑕疵についてや、土地の土壌汚染について、事前に売主の契約不適合責任を免責するなどがあります。
買主は、下記容認事項を確認・承諾の上、購入するものとし、下記事項について売主に対し、解除、損賠賠償、修補、代金減額請求等の一切の法的請求をなし得ないものとする。
- テレビなどの電波受信機器において、アンテナなど機器の設置や、ケーブル引き込みなどが必要になる場合、費用は買主の負担となる。
- 本物件上に新たに建物を建築する際、建築会社から地盤調査を求められたり、地盤補強工事などが必要になった場合、費用は買主の負担となる。
免責事項の項目例 | 築古物件の設備機能(水道設備・衛生・換気・冷暖房・電気配線・照明など)・土地の土壌汚染・近隣の高圧送電線の健康被害・周辺土地の利用による環境変化・周辺土地環境に起因する臭気など・区画整理の費用負担・ほか |
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通知期間の設定 | 買主は不適合を知った時から「1年以内に売主に対して不適合の事実を『通知する』だけで契約不適合責任の履行を求められる」ようになっているが、買主側が了解すれば自由に通知期間を定めることができ、短縮も延長も可能。 |
消滅時効 | 買主は請求の権利を行使することができることを知った時からは5年間、権利を行使することができる時からは10年間行使しないときは、契約不適合責任における買主の権利は時効により消滅する。 |
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3-2.民法以外の法令は?【不動産消費者保護】
おもに新築物件の話になりますが、欠陥施工の被害に遭ってしまった場合、住宅施主の権利は「民法」の契約不適合責任だけでなく「 品確法」や「 瑕疵担保履行法」「 住宅性能表示制度」「 住宅瑕疵担保責任保険」などで守られています。
施工者やその使用者を対象にしかるべき対応を受けられるよう、手続きを取ります。
「住宅性能表示」は、平成12年4月1日に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、「品確法」)で定められた住宅性能表示制度に準拠したサービスです。国が定めた統一の基準で、住宅の性能を評価し、表示をします。
評価項目は申込み事項に応じて住宅の性能をチェック依頼ができます。評価は、法律に基づいた共通のルールである「 日本住宅性能表示基準」と「 評価方法基準」に基づいて行われます。
このサービスは、実は新築だけでなく既存住宅にも適用開始されており、建設住宅性能評価書が交付されている住宅については、トラブルが生じた際に指定住宅紛争処理機関(各地の弁護士会)に紛争の処理を申請することができるようになりました。
施工者及びその使用者の契約適合責任期間、いわば時効ですが、10年の義務となっていたものが、不法行為と認められた場合20年に延長となりました。
※新築住宅瑕疵保険
4. 契約不適合責任はどんな請求事例がある?【不動産の実例】
※具体的に請求が契約不適合として認められた事例です。
土地面積:土地の面積を契約締結後に再測量した結果、当初契約時の公簿面積と違って、いくらか狭かった。 ⇒ 改正で隠れた不適合も含まれるようになり、代金減額請求が認められた。
土壌汚染:契約時には環境基準はクリアしていたが、引渡しまでに有害物質が蓄積して基準をオーバーしてしまった。 ⇒ 契約不適合が認められ、特約による免責も取り決めがなかったため、減額請求となった。
物件の心理的瑕疵:自殺のあった物件の告知が借主になされておらず、あとでその事実を知った。 ⇒ 契約不適合となり、借主の求めに応じて契約解除・諸費用返還。
5.「契約不適合責任」についてのまとめ
以上、「契約不適合責任」というテーマでのお話をしました。最新の消費者保護の実態、実際にどんな事例があるかなどは、理解を頂けたでしょうか。
大きな買い物というのは本来、お互いの信頼が築かれ、それが継続していくのが一番望ましい姿です。その信頼継続のために 3段階の「防波堤」があるのをご存知でしょうか?
とくに不動産などはアフターケアや地域の中での信頼などが大事な分野なので、もめ事というのは買主・売主相互にとって不利になるからです。
まずは「何かあった時にもめない」ためには、 契約を交わすことになるのですが、契約書の条文の約束ごと、これが第1段階。
次に、それでも契約書には書いてない(書ききれない)状況でのトラブルが発生した時に、「これはこうする」という部分をほかの 法律にゆだねます。今回の契約不適合責任のお話はこれに該当します。
そして最後の手段、第3段階は 訴訟です。法律の解釈というのも多様な要素があるので、弁護士や法廷に決着をつけてもらうわけです。
訴訟まで行ってしまえば、信頼関係の継続も何もありませんし、「それでも納得できない」という思いがどちらかに残ることがほとんどにはなります。
「意図しない不幸なトラブル」は事前に完全に防ぐことはできないでしょうが、やはり契約前になるべく色々な要素を確認・売買双方が話し合っておくのが大事、ということになります。
- 契約不適合責任は、買主の権利を守る法律。果たされなかった商品の効果を補償するための法律。
- 2020年の民法改正で「瑕疵担保責任」から名称・内容ともに変わった。
- 代金の減額の追加・追完請求の追加・明らかな瑕疵でも補償するなどの点が内容の改正の重点。
- 契約時に特約で、売主の免責事項や、期間の調整を行うことは部分的に認められる。