「 不動産賃貸業」というと、不動産企業が頭に浮かびますが、賃貸物件の所有者は8割以上が個人です。表には出てきませんが、「 ほとんどが個人」ということですね。
「不動産賃貸業とは?」
「副業や開業はどうすればいい?」
「資格や仕事内容は?」
「将来性を知りたい」
さらに、世相の変化やコロナ禍で、再び不動産オーナーに注目が集まり始めています。
今回は「不動産賃貸業」についてのお話をします。投資や副業として興味のある方には見逃せない話です、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 不動産賃貸業とは?
1-1. 不動産賃貸業の定義
不動産賃貸業は、いわゆる大家として、自らが保有する土地や建物などの不動産を第三者に賃貸して賃料を得る事業のことをさします。大家、居住用物件オーナー、アパート経営、貸間業なども、ほぼ同意の言葉です。
不動産業者が管理受託の業務を行っているので、本業とは別の補完的な事業として取り組むこともできますね。
1-2.不動産の取引に関わる業務分類
不動産取引に関わる業種の分類と名称は複雑ですが、以下のようになります。
確定申告時:「不動産貸付業」
まず税務上の分類ですが、確定申告書の個人事業主の情報を記入する欄、職業欄には、アパート経営をしている場合、「不動産貸付業」と書きます。(複数の事業も営んでいる場合は、売上の多いものを書く事となりますが)
統計資料での職業分類:「貸家業」
国勢調査や業務状況調査などの際の区分は、総務省統計局の『総務省統計局 日本標準職業分類の業種(産業)分類コード表』にそい、692の「貸家業・貸間業」となります。
K 不動産・物品賃貸業 | 不動産取引業 | 681 | 建物売買業、土地売買業 |
---|---|---|---|
682 | 不動産代理業、仲介業 | ||
不動産賃貸、管理業 | 691 | 不動産賃貸業 | |
692 | 貸家業、貸間業 | ||
693 | 駐車場業 | ||
694 | 不動産管理業 |
2.不動産賃貸業の開業・起業方法【個人・法人】
2-1.開業
副業でも正業でも、個人事業としての開業は容易で、物件を購入する資金力さえあれば開業できます。 月に数万円の儲けのプチ大家さんから始めることも可能です。
個人の場合、確定申告を行いますが、最初の年にある程度形ができれば、2年目以降は賃料の増減・償却・修繕費など以外は大きな変化ありません。
法人成りをすることもでき、相応のメリットはあります(代表例は借り入れ能力です)が、税務上のメリットが出るのは、月の収入が100万を超えたライン、最低でもほかの事業を含め年収が1000万円を超えたあたりからになります。
融資の受けやすさ | 2期分の黒字決算(高自己資本)の実績で受けやすくなる。 |
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実効税率 | 課税所得900万円以上で、税率が低くなる。 |
社会保険料控除 | 上限なし・すべて経費計上OK。 |
損失繰越期間 | 9年間(個人は3年間) |
譲渡所得税 | 短期譲渡がなく、早期売買可能。 |
減価償却の計上 | 計算式の範囲内のみ。 |
相続対策 | 不動産は相続税の対象外。 |
2-2. 不動産賃貸業に必要な資格は?
賃貸を自ら(=自己所有物件について)行う場合、 基本的には資格は不要です。宅建業も宅建士も必要ありません(持っておいた方が業務上の知識がつけられる点で、良いには決まっていますが)
あらたに令和3年6月から、一定以上の規模の賃貸管理を行う業者を対象に、国土交通大臣への登録が必要となり、同時に事務所には1人以上の業務管理者( 賃貸不動産経営管理士)の設置が決まっています。
※【宅建完全独学・宅建免許】自ら賃貸・転貸は利益出るのになぜ宅建免許がいらないのか。宅建業法の基本知識を超初心者向けにわかりやすく解説。(棚田行政書士)
3. 不動産賃貸業の仕事内容【入居人募集〜管理】
(本来の)大家さんの仕事は、大きく言えば下記の3つです。
・入居者の管理
・物件の管理
・資金の管理
最初の2つは月額賃料の5%前後を支払って、不動産会社に管理委託を依頼できます。
そして 3つ目の資金管理は必須(家賃徴収関連のみ委託が多い)になるのですが、最初の2つを勉強するほど、資金管理の精度が上がり、入居者のニーズに応じ「何をすればよいか」がわかってくるのが大家業です。
このほか空室時の募集も業者への依頼が多いのですが、基本的には管理を委託している業者がやってくれます。
この業者の募集能力が高くない場合、「いつまでも空室のままで、赤字」ということが起きやすくなります。広告料を増やすために賃料1か月分のAD(広告宣伝費)を支払う場合もあります。
入居者の管理 | ・入居者の募集 ・入居希望者の審査 ・契約更新手続き ・クレーム対応 ・退去の立会い …他 |
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物件の管理 | ・物件共有部・空室の部屋の清掃 ・設備・外装・内装の修理 ・リフォーム ・新設備の導入 ・防犯性の向上 …他 |
資金の管理 | ・家賃の徴収 ・家賃の延滞・滞納分の督促 ・修繕費の積み立て ・確定申告の準備 ・税金や保険料・代行料・清掃料などの支払い ・更新・退去に伴う敷金もしくは原状回復費の精算 ・ローンの返済 …他 |
3-1.大家さんの声
募集も管理も業者に任せっぱなしのようでも、大家さんにも意外に苦労があります。
修繕費
「ワンルームマンションのオーナーです。修繕費の膨大さに唖然としてます。新築後、1、2年後にはもう修繕費発生。なんで?
ガス器具だってエアコンだって、新品なら10年くらい修理なしで使えるものでしょう。よくまあこんなに、と感心するくらい次々設備が壊れます。
ちなみに私の実家も貸家の大家ですが、貸家も実家も同じ業者が同時に建てたのに、たたみにカビが生える、風呂桶が水漏れする、床が腐って落ちる、と実家に比べると信じられないくらい家が傷むそうです。」
賃料滞納
「頭痛の種は滞納です。一度数十万踏み倒されてしまったので同じ轍は踏みたくないのですが、立場が弱いんですよね…。
勤め先なんて全く当てになりませんよね!公務員だろうが大企業だろうがもう信用しません。入居時に工場勤務だったはずの人が、いつの間にか反社会的勢力に身を置いていらっしゃったこともありました。」
ゴミ分別
「ごみの分別をきちんとやってくれないのです。中身が入ったままの化粧品や缶詰、吸殻がぎっしりつまった空き缶、そのまま捨てられているので、大家がチェックしていちいち中身を出さなきゃなりません。
人の家のゴミなんか触りたくないのに、プライバシー侵害とか言われるとキレそうになりますね。」
運用しろと??
「以前、”家賃を毎月払うのが大変なので、買い取らせて下さい。うちが出る時に(新米大家が)その額で買い取って下さったら良いですから”と言われました。意味が分かんないです。」
出典:発言小町
3-2.不動産賃貸の仲介会社ランキング
上位の大手仲介会社の規模をご覧ください。(こちらの件数・金額等は売買物件の仲介を含む数字です)
三井不動産リアルティ
仲介件数 | 4万1,533件 |
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取扱高 | 1兆7,068億4,300万円 |
店舗数 | 281店舗 |
手数料収入 | 850億800万円 |
手数料率 | 約5.0% |
特徴 | 三井のリハウスのブランド 仲介件数はここ30年近く毎年1位をキープ 一定の条件で、建物補修や駆除、設備の修理が無料 |
住友不動産販売
仲介件数 | 3万7,643件 |
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取扱高 | 1兆3,263億5,700万円 |
店舗数 | 270店舗 |
手数料収入 | 696億1,500万円 |
手数料率 | 約5.3% |
特徴 | 住友の仲介STEPブランド 関西圏では集客力が高くその力は関西No.1 売却可能額を知りたいときは無料で査定してくれる |
東急リバブル
仲介件数 | 2万5,570件 |
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取扱高 | 1兆2,455億3,000万円 |
店舗数 | 182店舗 |
手数料収入 | 601億4,900万円 |
手数料率 | 約4.8% |
特徴 | 東急沿線がメイン営業エリア 大手3社では1件あたりの平均物件価格が最も高い 最近は関西圏も営業エリアとして販路を拡大している |
野村不動産グループ
仲介件数 | 8,922件 |
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取扱高 | 7,673億2,400万円 |
店舗数 | 86店舗 |
手数料収入 | 331億3,600万円 |
手数料率 | 約4.3% |
特徴 | 野村の仲介+ブランド オリコンの顧客満足度調査で、マンション・一戸建てともに1位を獲得 不動産ポータルサイト「ノムコム」を運営している |
三井住友トラスト不動産
仲介件数 | 7,935件 |
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取扱高 | 5,042億1,800万円 |
店舗数 | 72店舗 |
手数料収入 | 206億5,600万円 |
手数料率 | 約4.1% |
特徴 | 信託財産での不動産活用に強みを持つ 三井住友信託銀行グループの不動産仲介業者 銀行のノウハウを活かし、売却やローンもワンストップサポート |
※こちらもぜひ参考にしてください
不動産仲介の役割は?3つの種類と良い仲介業者の選定ポイント
4.不動産賃貸業の将来性
コロナ禍のテレワーク推進で、単身者通勤用のニーズが周辺地域に分散し、都市部の狭めの部屋はいま、苦戦傾向にあります。
ただし今後、高齢者の住み替えやサブリース、民泊等気軽に移り住むホテルとの中間的なニーズなどの新たな需要、不景気を背景に古めの部屋をうまくリノベして貸し出す手法の発展が見込める状況になってきています。
さらに、旧来の大家さんの高齢化(=6割が60歳以上)で、安く購入できる投資用物件の増加など、物件の供給も進む見込みで、不動産賃貸業が盛り上がる要素が多数あるというのが、最近の見方です。
5.「不動産賃貸業」についてのまとめ
以上、「不動産賃貸業」というテーマでのお話をしました。最新の不動産賃貸業の実態については、理解を頂けたでしょうか。
「どのようにすれば入居者が喜んで、空室状態が減るか」というのが核の仕事なので、そこにおいては大家は、不労所得や投資ではない点、はっきりしています。管理業者から「こうした方がいいですよ」と勧められた際、その意味が理解できなければ、意味がないからです。
とくに、高齢の旧オーナーが手放した築古物件と取得して、副業で始めるような人には、 「勉強する」「自分で知恵を絞る」「DIY」などは、必須だと思った方がいいですし、その方が楽しく関われます。
根本的には不動産をファンドとして志向するような人も、大家業は勉強しておいて損はありません。顧客の気持ちに近づけるからです。
それから、「なるべく任せっきりにしたい」人にもひとつ注意点ですが、仲介はおおむね、前項でご紹介したような大手を「会社が大きいから安心」と指名するよりも、地元業者の中からネット戦略のちゃんとしたところと組むことをおススメします。
賃貸の客付け・物件管理の上で、地域密着の情報ネットワークがあるか、賃借人とちゃんと話せる人間力があるか、設備系・ハウスクリーニング・リフォームなどで安くて速い業者との付き合いがあるかなどが重要ですが、大手はその辺、あまり得意ではありません。
大手は大量の社員と高い売り上げ目標を抱え、仲介は大きな利益の出る売買を中心に、力を入れざるを得ないからです。
- 不動産賃貸業は、簡単に言うとおもに大家業をさす。8割が個人事業者。高齢化が進んでいる。
- 不動産賃貸業は少額の投資から始められ、法人成りも目指せるが、売上1000万円を超えてからが法人有利。
- 自己所有物件の賃貸に資格は不要。仕事内容は不動産会社に委託できることも多いが、任せっきりでは空室増加・賃料ダウンが起きがち。
- 組む管理会社は地域情報と募集時のネットリテラシーをしっかり持った相手を選ぶことが肝心。